誰かの不幸は誰かの娯楽

自分の精神衛生状態を保つために世間を賑わせている話題は極力避けて生活しているのだが、前回夫と話した「ナインティナイン岡村隆史オールナイトニッポン中の失言」

【🐕🐇議事録】岡村隆史、風俗を自粛「神様は乗り越えられない試練は作らない」 - spicecats’s blog

のその後がどうしても気になり、色々と調べてしまった。

 

私たちが読んだ記事(岡村隆史、風俗を自粛「神様は乗り越えられない試練は作らない」(SmartFLASH) - Yahoo!ニュース)とは別の記事があったようで、今回岡村氏の発言が広まり炎上することになったのはそれが原因だったことがわかった。

それと同時に「岡村隆史」について検索しようとすると何故か「藤田孝典」が候補に上がってくる謎も明らかになった。

 

https://news.yahoo.co.jp/byline/fujitatakanori/20200426-00175351/

 

岡村氏の失言炎上(事実上)の仕掛け人となったライターはNPO法人ほっとプラスの理事を務める藤田孝典氏。

彼は自身の記事で激しく今回の件を批判しており、岡村氏の発言を

最悪レベルの下劣さ

と切り捨て、岡村氏や岡村氏同様に風俗店を利用するリスナーのような人々を

「性の商品化」を待ち望み、女性の生活困窮や貧困を支援、縮小に向けて取り組むのではなく、待ち望む下劣な購入者たち

と表現している。

個人的には当事者(性産業従事者)ではない彼がここまで過激な言葉選びをすることに違和感を感じるが、記事の大筋の内容は私が岡村氏の発言を見たときに考えたこと似通っていたので、そこまで気にしなかった。

 

しかし私は前回夫との会話のなかで

深夜ラジオをわざわざ掘り起こして「こんなに不適切なこと言ってますよこの人」って広めるライターも気持ち悪いと思う

と話していたこともあり、このライター自身に良い印象がない。

第一印象が悪い人間に対して「他人を批判できるほど清廉潔白なのかどうか」疑惑を抱いてしまうのは当然のことなので(?)藤田孝典について調べてみると、彼が立ち上げたほっとポットという団体が貧困ビジネスであるとさいたま市議の吉田一郎という人物から追及を受けていることが発覚した。

 

ネットリテラシーの高い私はこれが成り済ましによるデマゴギーである可能性を疑い、念のためそのようなやり取りがさいたま市議会であったのか議事録を確認した。

あった。

8年前の吉田氏本人の発言が記録されていた。

 

さいたま市議会議事録 2012/3/16

会議録表示

そして、ちょっと話も出ましたけれども、生活保護費、314億6,124万円ですか。前年より1割以上、30億円以上ふえているわけです。これ貧困ビジネスという問題が非常にこの生活保護の増大の中の一因、あくまで一因ですけれども、一因になっているのではないかと思うのです。やはり本市でも、先ほどちょっと話出ましたけれども、こういうふうに生活保護の申請に同行するというふうに事業にしてしまっているのです。書いています、これ。生活保護の申請支援、申請同行及び審査請求、不服申し立て手続の支援なんていうふうに事業にしてしまっているわけです。こういった団体がまかり通っている。これは、果たして弁護士の資格がない人が申請に一緒にくっついていって手続をやっていたら、これ非弁行為として法律に触れかねないのです。そういった団体を何かさいたま市の市長がお墨つきを与えて、新しい公共のあり方を考えるなんて言って一緒に対談やってしまうというのは、これ私は大問題だと思います。私いろいろ調べたのですけれども、ほっとポットという団体です、昨年あったのは。そこの代表の方、調べたところ、人件費のほかに役員報酬、代表のみが得るお金413万円取っているわけです、人件費とは別、給料とは別に役員報酬として。そして、生活保護の同行支援事業、あと障害あるのではないですか、では障害の手続もいかがですか、ほかのそういった申請支援も含めて4万2,000円取っているという話なのです。生活保護の生活料って8万円なのです、1人の場合。その半額以上に相当するお金を申請同行、申請支援だ、そういったさまざまなサポートだといってお金取ってしまって、そして代表の方は給料とは別に413万円報酬を得ている。こういった団体、私は本当に、新たな貧困ビジネスではないかと思います。こういったのとはきっちりさいたま市は一線を画して、市長はお墨つきを与えるべきではない。こういった人が、また民間との連携をなんて言ってきても、いや、市長、会うではないです。私は、こういった新たな貧困ビジネス、こういったものは根絶すべきだと思います。

 

さいたま市議会議事録2012/6/12

会議録表示

 では、資料のほうをお願いいたします。貧困ビジネス、これをわかりやすく説明した、時間もないので、大宮の三大文化の一つ、漫画で説明しますけれども、要するに1番、NPOとかがよく市内のみならず、県内、都内、各地でホームレスの方とかに、困っていることありませんか、生活保護制度受けませんか、私がついて行けば大丈夫ですよ、こういうふうに声をかけると。そして、2番、では、その前に契約書にサインしてください。生活保護の申請同行サービス4万2,000円いただきます。分割払いも可ですなんて言うわけですね。そして、3番、実際に区役所に行って、この人に生活保護を出すべきだと、こういうふうに押し問答して、4番、実際保護費が出ましたと。おめでとうございます。私たちが運営しているグループホームにどうぞと案内して、そこに住んでくださいとやるわけです。
 そして、結局一軒家を借りてグループホームというふうに運営しているのですけれども、大体1軒につき5人ぐらいもとホームレスの方を住まわせて、市から住宅扶助の上限ぎりぎり、4万7,000円、5人分。かつ、入居者のほうからも共益費だといって1万円、これは5人分取る。そうすると、このNPOには28万5,000円毎月入るのです。
 一方で、この一軒家を幾らで借りているかというと、8万円ぐらいで借りているわけです。家主に払うのは8万円。となりますと、この1軒のグループホームで毎月20万円粗利が上がる。私が問題にしていましたほっとポットという団体の場合ですと、こういったのを15軒持っていると。3年間で2,000万円以上トータルで利益を上げていると、こういった実態がございます。これが貧困ビジネスの実態だということです。
 さて、そこでお伺いします。
 こういった無料低額宿泊所の取り締まり、まず定義に関して、こういったのを無届けで勝手にできるのでしょうか。そして、市のほうもこういったのを例えばチェックをしたりとか、そういったのはできないのでしょうか、やらないのでしょうか。

 

ちなみに藤田氏の反応はというと、Twitterを確認する限り吉田氏とやり取りした形跡は見当たらず、吉田氏の追及に触発されて自身の意見を呟く他のユーザーに対して名誉毀損による訴訟をチラつかせる引用ツイートをするなどしていた。ますます印象が悪くなった。

 

また別な視点から藤田氏の記事を批判する者もいる。

セックスワーカー(性産業従事者)の健康と安全のために活動するグループSWASH代表の要友紀子氏による投稿を紹介したい。

大変なボリュームなので引用は最小限にするけれども、何しろ全ての文が要所なのでできればこちらは全文読んでもらえるとより正確に問題点が伝わるだろうと思う。

 

岡村叩きにみる正義を語る悪魔|要友紀子|note

彼の問題提起の社会化の手法は、様々なマイノリティや被差別コミュニティで生きる人々にとっても、かなり既視感と危機感を感じるものと考える。

 

最も胸が痛いのは、SNSで風俗差別、セックスワーク/ワーカー差別ツイート(=差別という自覚のない、悪気のない好意的な差別、マイクロアグレッション)が蔓延し、たくさんの当事者たちがここ数日心労を伴いながらその火消しをしていることだ。

 

連日知人らから、「岡村発言をどう思っているのか」という踏絵のような詰問メール、SNSでも、「SWASHの見解はどうなのか」「要は岡村発言について何も発信しないのか」といった書き込みがあった。あなたは岡村発言についてNOなのかYESなのか、困窮して風俗で働く女性はやっぱり可哀想な人間だよね?好きで働いている人は別に勝手に働けばいいけどそうじゃない多くの人は国が助けないといけないよね?そんな可哀想な人が働く風俗を利用する客は悪魔だよね?だから岡村は叩かれて当然だよね?という数々の分断の芽がSNS上あちこちに植えられ、対立の煽りがひどい状況だ。

一方、藤田氏の因習的イデオロギーを内面化し、自分はそういう搾取的な産業に加担する悪い人間なのだと、今回の記事をきっかけに自分を責めているセックスワーカーもいたし、岡村のようなゲスい客を受け入れて収入を得るしかない自分という存在の惨めさを思い落ち込んでいるワーカーもいた。

 

経済産業省がいま持続化給付金のことで、本当に風俗業従事者を給付対象にするのか否か、流動的な微妙な空気が流れている

 

私がとても懸念しているのは、経済産業省の官僚たちがまさに今、「世の人々は風俗は本来あってはいけない産業だと思っている、他の労働と同じ労働としては捉えてないらしい」というSNSでの世論をどこまで参照にしているかだ。

 

岡村発言を炎上させるのを、この持続化給付金のことが落ち着くあと数週間待ってほしかった。岡村発言は確かに問題で世間で騒がれて当然の話ではあるが、今はやめてほしかった。いま私たちは経済産業省をなんとか説得しようと必死で動いている喫緊のところだ。

 

藤田氏は、性風俗で働く人々を風俗から解放しようとは本気で考えてはいない。それくらいは当事者は見抜く。彼は貧困問題における政治や資本家の不作為や搾取の問題を追及したくて「性風俗で働くかわいそうな女性」を印籠のように使いたいだけだ。

 

藤田氏の記事が引き金となった今回の炎上により、藤田氏が保護したかったはずの当事者に負担がかかっている。それどころか彼らの今後の暮らしに悪い影響をもたらしかねないという切実な訴えを読み、私も話題にした一人として反省せざるを得ない。非当事者が特定の人々を代表して何かを伝えるのはとても困難だ。私自身もたまにしたり顔でどこかの誰かの気持ちを代弁してしまうので弁えたい。

 

今回色々調べてみて改めて思ったのは、岡村氏やその発言に中指を立てて良いのは岡村氏が指名した風俗嬢や、その周辺の人々だけだということだ。

これから商品になるかもしれない女性に同情していたとしても、性産業従事者ではない私を含めた我々は野次馬の域を出られない。

“女性軽視発言をした岡村隆史氏に対しNHKチコちゃんに叱られる」の降板及び謝罪を求める署名活動”(署名を推奨したいわけではないのでリンクは貼らない)なんかはもはや正義感が娯楽化したものだろう。

皆それぞれ自宅で待機しなければならず思うようにストレスが発散できていないのかもしれないが、岡村隆史の降板に成功したところで困窮する人々の生活は潤わないことは明白だ。

 

そのエネルギー、もっと他に使えるんじゃないのか。